「好きだぞっ、菊川くん!」 「……はぁ?」 「いやいや、そんなに変な顔をしないで欲しいな。今のはほら、 単純な愛の告白なんだ。英語で言うとアイラブユーで、フランス 語だとジュテイムかな?」 「愛の告白だぁ? 舐めてんのか?」 「うーむ、君はどこをどうしたら、愛の告白を舐めていると受け 取れるのかな? いやまあ、大人の愛の告白は、舐めるようなも のもあるのだろうが……私のはそう卑猥なものではなくてだな、 もっとこう、ピュアなものなのだよ」 「何が言いてぇんだ?」 「だから、私は君のことが好きなんだよ、菊川くん。大好きな君 と付き合うことで、私は十代というやや危なげで儚げな青春を、 煌くような美しい思い出で飾り付けたいんだ。ほら、よくテレビ なんかで、学生の頃に好きだったけど、告白出来なかった〜とい うヤツがあるじゃないか。ああいう悔いは残したくないのだよ」 「要は、俺と付き合いてぇってことか?」 「そう、その通りだ。想像よりも飲み込みが早いな、君は。ます ます好きになったぞ。ラブラブ好き好き愛してる!」 「……顔真っ赤にしながら、親指突き立ててんじゃねぇよ」 「それだけ私が本気ということだ。脈拍とか調べてみるかい?  多分、今は百二十八パーセックを超えているぞ?」 「別に脈拍とかは良いんだけどよ……」 「どうした? そんな眉間に皺を寄せて。疑問があるなら、三秒 以内に答えてみせるぞ?」 「……いや、どうして委員長サマが、俺みたいなのに告白してん だよ」 「愛に身分は関係ないだろう? 委員長なんてものはただの役職 に過ぎない。だから、君がいくら校則――まあ、法律もか。それ に違反していようとも、私がそれを注意する立場にあろうとも、 好きなことには変わりないさ」 「はっ。で、俺のどこが良かったんだ?」 「全てだっ!!」 「……だから、顔を真っ赤にしながら言ってんじゃねぇよ」 「すまんな、すぐ顔に出るんだ。で、それよりもOKは貰えるの か? 私はそこが気がかりで、今にも眩暈で倒れそうなんだが」 「あー、そうだな――」 「菊川くん! おはようっ!!」 「あぁ? なんでテメェが校門で待ってんだよ?」 「もちろん、一緒に登校しようと思ってさ! やっぱり恋人同士 たるもの、一緒に登校は常識だろう? あ、腕でも組まないか?」 「誰が組むか。ってか、一緒に登校だぁ? こっから教室までな んて、たかだか五分だろうがよぉ」 「その五分が嬉しいのだよ! 五分もあれば、最近のカップ麺な ら五食は作れるぞ? もちろん、平行してお湯を入れれば、一人 でも八十食くらいもギリギリ可能だがね!」 「あーそーかよ。勝手にしろ」 「よし、それじゃあ勝手に、菊川くんのことは、統チンと呼ばせ てもらおう! 昨日、徹夜で考えてきたあだ名だぞ!」 「テメェ、それで呼んだらブッ殺すからなっ!!」 「菊川くん! お弁当を持ってきたぞっ!!」 「イチイチでけぇ声出すんじゃねぇよ!」 「はっはっは、照れ屋さんだなぁ!」 「……顔真っ赤にしてるテメェが言うんじゃねぇよ」 「すまんすまん、だが、恋人とはこういうものだろう? 私は今、 最高に幸せだぞ!」 「クソが……面と向かって言うんじゃねぇよ。お前に恥っつーも んはねぇのか? しかもなんだこりゃ? 弁当にもピンクのハー トなんか書きやがって……」 「桜でんぶだ! 愛のカタチだ! 甘くて美味しいぞ!」 「見りゃ解るっつーの! イチイチ大声出すなっ!」 「菊川くん! 一緒に帰らないかっ!!」 「帰らねぇよ。俺ぁこれからパチ屋に行くんだ」 「おいおい、高校生たるもの、パチンコは良くないぞパチンコは!」 「だからでけぇ声出すんじゃねぇよ!! 面倒なのに聞かれんだ ろうがっ!!」 「いやいや、私も一応委員長だからな。愛する君の頼みとはいえ、 やはりこういうことに目を瞑るわけにはいかんのだよ。それより、 これから公園で愛でも語り合わないか!」 「だから顔真っ赤にして言うんじゃねぇよ! ったく、こっちが 恥ずかしくなってくるっつーの……」 「全く、照れ屋さんだなぁ菊川くんは! っと、待ちたまえ! どこへ行くつもりだ!?」 「うるせぇんだよ! 勝手に一人で帰ってろ!!」 「菊川くん! おはようっ!!」 「菊川くん! お弁当持ってきたぞっ!!」 「菊川くん! 一緒に帰らないかっ!!」 「菊川くん!」 「菊川くん!」 「菊川くん!」 「あーっ! うざってぇ!! なんなんだよ、あのクソ女っ!! いちいち人前でもベタベタベタベタ引っ付いてきやがってよぉ!」 「ひっひ、災難だなそりゃ」 「災難どころじゃねぇよ……クソ。全然笑えねぇ」 「いや、そりゃ逆だろ。知ってるか? お前と委員長、学年全体 の笑いものになってるって」 「あぁ!?」 「俺にキレんなよと。お前が尻に敷かれてるのが悪いんだろ」 「敷かれてねぇよ! 殺すぞ!」 「おー、怖いですこと。やぁねぇ、菊川さんトコの息子さん、最 近反抗期みたいですのよ?」 「歯ぁ食いしばれ……今なら半殺しで許してやる……」 「だー、冗談だって! ったく……すぐにキレんなよ。大体、お 前が悪いんだろ? 委員長の告白なんか受けるから」 「……まあ」 「そもそも、なんで委員長と付き合ってんだよ? 確かに顔は良 いけどよ、俺らの敵と付き合うようなもんだぜ?」 「……」 「あ、それともアレか、委員長とヤるためか! そりゃあヤるた めだったら、多少のことくらいは我慢できるしな。どうだ、当た りだろ!?」 「………………バレたか」 「は、やっぱそうか! うっわー、羨ましいなぁオイ! 向こう から好いてきてるんだし、もうヤったも同然じゃないかよ!」 「そう……だな。そうだ。俺はヤるためにアイツと付き合ってる」 「チクショー、俺にもおこぼれよこせよ? 3Pでも構わねぇか らよぉ、なっ!?」 「……オナニーでもしてろバカ」 「おぉ、菊川くん! 君のほうから来てくれるなんて、盆と正月 が一度に来たくらいに嬉しいぞ! 今日は赤飯を炊かなくては!」 「赤飯はどうでもいいけどよぉ、委員長」 「ん? なんだいなんだい? 君に聞きたいことがあるのなら、 今はどんな難題だって答えてみせるよ!」 「んじゃ聞くが、今日ってお前ん家、行っても良いか?」 「ん? ウチかい? ウチに遊びに来たいのかい?」 「あぁ。ダメか?」 「ダメって訳ではないが……明後日から中間テストだぞ? 私は 構わないが、菊川くんが勉強できなくなるだろう?」 「別に構わねぇよ。どうせたいした点数取れねぇし」 「いやいや、だったら余計に頑張ろうじゃないか。そうだ、私が 勉強を教えてやろうか?」 「……あぁ、だったら別にそれでもいい。とにかく、お前の家に 行こうぜ」 「ふむ、そういうことなら大歓迎だ! それじゃあ、まずは取り やすい世界史から頑張ってみるとしよう!」 「……」 「世界史は単純な暗記問題だから、どれだけ覚えられるのかで勝 負が決まるのだよ。下積みの必要な数学と違って、与えられた範 囲さえ徹底的に覚えてしまえば、」 「委員長」 「なんだい、菊川くん! あぁ、やっぱりこんな前置きは良いか ら、さっさと教えて貰いたいのかな?」 「そうじゃねぇよ。そうじゃなくて――」 「えっ? あ――」 「……俺はよ、ずっとこうしたかったんだよ」 「き、菊川くん!? ……そ、その、こういうのは、まだ早いん じゃないかなっ!?」 「……早くねぇよ。周りはみんなやってる」 「いや……あの、その、だからと言ってだな……私の本で学習し た恋愛では、こういうのは付き合ってから、何ヶ月も後になって ようやく……」 「そんなに待てねぇよ。……好きなんだよ、委員長」 「な、なななんだ!? そ、そんなに迫ってきて、その、き、き、 “きす”するのかっ?!」 「あぁ、する」 「ぁ……だ、ダメだっ!!」 「……あぁん?」 「その、だ、ダメなんだ! ……約束が、あるんだ」 「約束? なんだそりゃ?」 「……実は、祖母が物凄く厳しい人なんだ。その祖母に、女の子 は、勉強が出来る子と付き合うべきだと言われていて……」 「……は? 意味解んねぇよ。大体、だったらどうしてお前、」 「私が菊川くんと付き合ったのは、君のことが本当に大好きだっ たことと、……君なら、僕のために勉強してくれると思ったから だよ」 「……いや、俺は、」 「大好きだから、信じているんだ。菊川くん」 「……」 「私のことが好きなんだろう? さっき、言ってくれたよな?」 「……まあ」 「なら、私のために勉強してくれないか? せめて、今度のテス トで六十点は取ってくれないと、祖母に申し訳が立たんのだよ」 「……」 「私も、可能な限りは手伝おう。君が点数を取るためだったら、 寝る間も惜しんで協力するさっ! ……でも、それまでこういう ことは無しにして欲しい」 「……」 「菊川くん?」 「……なあ、委員長」 「なんだい?」 「お前は俺が好きで付き合ってたって言ったじゃねぇか。俺はど うして、お前と付き合ったか解るか?」 「……好きだからじゃないのか? “それでも地球は回っている” くらいに愚問だと思うが」 「ちげーよ。お前とヤりたいからだよ」 「やり、たい?」 「Hしてーからだよ。簡単にヤれるだろうって、体目当てで付き 合った」 「……菊川、くん」 「だから、ぶっちゃけ勉強なんて面倒くせーことしてまで、お前 と付き合う気はねぇよ。悪いけどな」 「……」 「つーわけで、俺帰るわ」 「あっ……」 「じゃあな」 「っ、――菊川くん!」 「あ?」 「……ガリレオ・ガリレイが裁判で負けても、最後の最後まで主 張したように、私も主張しよう」 「まだお勉強の話か? いい加減――」 「“それでも、私は愛している”」 「……ッ!」 「――大好きだぞっ!!」 「く、勝手に言ってろっ!」 「くそっ、なんなんだよ、あの女……」 『“それでも、私は愛している”』 「だから、顔真っ赤にするんじゃねぇよって、散々言ってんじゃ ねぇかよ……。こっちが見てて恥ずかしくなるって……。それに、 言ったじゃねぇかよ……ヤりてぇだけだって……」 『――大好きだぞっ!!』 「くそったれ、マジでイライラしてくる。……煙草、切らして たっけか?  ――って、やべぇ! 財布入れたカバンごと。アイツん家に忘 れてきちまった……。取りに、行くしかねぇよな……」 「……門扉にぶら下げてあるって、どんだけ完璧な拒絶なんだよ。 まあ、こっちも無理して会わなくて済むから、助かるっちゃ助か るけどよ――って、なんだこりゃ? 手紙……?」 『君のノートに、勝手ながら試験対策を書いておいたよ。当日は、 コレさえ覚えれば大丈夫だ。君を信じているよ、統真くん!』 「……アイツ、正真正銘のバカだな。信じてるだぁ? んなもん で、俺が勉強するとでも思ってんのかよ?  この俺が、勉強なんて……なぁ……」 「菊川くん!!」 「あんだよ、うっせーな! イチイチ大声出すなっつっただろー がよ!」 「はっはっは、すまない! だが、大声を出さずにはいられない だろう? これは!」 「チッ……どいつもこいつも、人がちょっといい点数取っただけ で騒ぎやがって……」 「だが、私が騒ぐのは、有象無象とはまた別だ! 信じていたぞ、 菊川くん!」 「……お前のためじゃねぇよ。ただ、ちょっと面倒でも、ヤりた くなっただけだ。本当だぞ!?」 「あぁ、解ってるさ! だけど、私の祖父が厳しい人でな、国立 大学に入れるような男じゃないと、孫との交際は認めないと……」 「ハァ!?」 「いやいや、別にこれは、菊川くんに私と同じ大学に入って欲し いからと、捏造しているわけじゃないんだぞ? 信じてくれ!」 「……む」 「……………………やったぞっ」 「は? 『やった?』」 「あぁいや、こっちの話だ!」 「……なんか怪しいが、まあいい。それより、いつかヤらせろよ な、未有」 「あぁ、私もドキドキしながら待っているぞ! 統真くん!」 おわり